■脂質と脂肪とは?上下関係は?どっちが偉い?どっちが大きなカテゴリ?
この記事は、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸を比較してどっちが良いのか、どっちが悪いのかを上から目線で公平にジャッジしてやろうという試み………だったのですが、飽和も不飽和も情報が多すぎて1つの記事には収まりきらず、今回は飽和脂肪酸寄りの記事なってしまいました。飽和、不飽和、を若干比較しつつ、コレステロールを含む不飽和脂肪酸の解説は別の記事にて………。
まず最初にお伝えしたいことは脂質=悪ではないということです。
脂質は大事なエネルギー源であり、内臓を物理的にボヨヨンと保護したり、体温を保つ役割や、細胞膜やホルモンの材料になるなど、重要な働きをする栄養素です。
これは全ての栄養素にも言えることですが、摂りすぎる事が害となるのです。
悪とみられがちな飽和脂肪酸や、トランス脂肪酸、コレステロールも適量を摂っていれば害にはなりません。一部の飽和脂肪酸はむしろ病気の治療になるという側面もあるくらいです。油の良い面、悪い面を把握して、今後は健全なヌルヌル生活を送って下さい。

◎脂質が一番大きなカテゴリ、脂の大将

脂肪や脂質や脂肪酸やら………何から先に説明するべきか悩むところですが、まず………脂質と脂肪の違いから説明します。
脂質とは5大栄養素の一つで、タンパク質、炭水化物(糖質&食物繊維)、ビタミン、ミネラルに並ぶ大事な栄養素になります。
あぶらッこいもの全般であり、栄養素としての脂(油)そのものと言い切っても問題はありません。ここで言うところの油とは原油、石油などの工業用製品は含まれず、食用油に限ります。

飽和脂肪酸のバターも、不飽和脂肪酸のマーガリンも、飽和?不飽和?どちらか忘れたごま油も、脂肪酸の一種であるリノール酸も、DHAも、お腹の友達中性脂肪も、コレステロールなんかもみ~んなまとめて脂質という大きなカテゴリに所属しています。

◎脂肪とは?脂業界での脂肪の立ち位置は………。
次に脂肪ですが、一般的には中性脂肪、体脂肪とも呼ばれ、約34%のアメリカ国民や(アメリカの肥満率は3割越え)や、北朝鮮のカリアゲ野郎に親しまれています。

いや、親しまれてはいないだろう、むしろ疎まれていると思われる。
もちろん脂肪は脂質カテゴリに所属しています。
物質的(化学的)な説明に変えるとアルコールの一種であるグリセリン(別名:グリセロール)に、脂肪酸(←コイツについては後ほどあっち↓で詳しく解説します。今は名前だけでも覚えてやって下さい)が結合した物質がトリアシルグリセロールです。
中性脂肪は、化学的な呼び方をすると、トリアシルグリセロールになります。トリはトリプル(3つ)のトリで、3つの脂肪酸と1つのグリセロールが結合した構造となっています。

構造的には頭が3つあるキングギドラのようなものです。万物をキャベツに置き換えて表現すると以下の図のようにようになります。

二の腕のプニプニ感も、下っ腹のブヨブヨ感も、下顎のタップンタップン感も、全てがこのトリアシルグリセロールの感触ということです。
脂肪=体脂肪=中性脂肪=トリアシルグリセロール(脂肪酸3個+グリセリン1個)=歴代のキム・ジョンなんちゃらの顎
■脂肪酸とは?脂肪の原料、油脂の最小単位
◎脂肪酸はこんな形、構造の違いは性質(種類)の違い
脂質を説明するにしても、コレステロールを説明するにしても、何よりもまず先に説明しなければならないのが脂肪酸です。脂肪酸は脂質の基本な物質であり、中性脂肪の構成成分でもあります。
脂肪酸は脂質の構成成分となっている物質で、化学的な構造としては炭素、酸素、水素が鎖状に結合しており、脂肪酸全体が長い列車だとすると、炭素は炭素同士で前後にくっついた状態で連結しています。この炭素一つ一つが列車の車両と考えて下さい。
6個~18個程度連結された炭素の車両の片端にカルボキシル基がピコッとくっつた形をしています。逆の端には1個の水素がピコッとくっついています。
最後尾の車両の………更に後にはもう炭素(車両)はありません。カルボキシル基という化学式で書くと【-COOH】←こんな感じのよく判らない物質がくっついています。逆の端………先頭車両には、運転手の視界を防ぐかのように水素がくっついています。炭素の車両の横(車両の前後では無く側面、窓のやドアの面)には左右1個ずつ水素がくっついています。前には別の車両の炭素、後ろにも別の車両の炭素、車両の左右の窓には水素がへばりついている………これが脂肪酸(飽和脂肪酸)の基本的な形です。

脂肪酸の性質は、この構成の違いよって現れます。
炭素の数と前後の繋がり方、水素の数(何番目の車両で水素が抜けているか)によって変わってくる訳ですが、例えばリノール酸の場合、炭素の数は18個なので18両編成となり、先頭車両から数えて6番目の車両の片側の側面に水素がくっついておらず、水素と連結するはずの鎖が次の車両(炭素)と二重に連結されているという構造になっています。この炭素同士が二重に繋がっている部分を二重結合と呼びます。


リノール酸とは構造が異なるDHAの場合は、22両変編成で、先頭から3番目が留年………(間違えた)………二重結合となっています。


■では本題、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の違いは?………こいつ等何者?
飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、名前の通りどちらも脂肪酸の一種です。
飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸共に色々な種類があり、性質や働きも様々です。
飽和脂肪酸は”悪い油”であり、不飽和脂肪酸は”良い油”だというイメージが定着しつつありますが、それは正解であるとは断言できません。確かにその様な傾向が見られる事は確かですが、飽和脂肪酸には”体に良い油”も含まれています。
どの油にも飽和と不飽和どちらも含まれているためバランスの違いはありますが、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸は切り離すことが出来ません。例えばパーム油の場合、100g中に含まれる飽和脂肪酸は約47gで、不飽和脂肪酸は約48gです。(残りの5gは夢と希望とビタミンEとビタミンKとコレステロールなどが含まれています。合わせて100g)
所属カテゴリを考えると一番大きな枠が”脂質”、その下に”脂肪酸”、更にその下に飽和脂肪酸・不飽和脂肪酸、と続きます。
更に飽和脂肪酸は短鎖脂肪酸と、中鎖脂肪酸と、長鎖脂肪酸に分類されています。
不飽和脂肪酸は一価不飽和脂肪酸と、多価不飽和脂肪酸に分類され、最後に多価不飽和脂肪酸がn-6系【別名:オメガ6】(リノール酸・アラキドン酸など)とn-3系【別名:オメガ3】(ドコサヘキサエン酸・α-リノレン酸など)に分かれます。
有名なリノール酸は、多価不飽和脂肪酸に属する、n-6系の不飽和脂肪酸で、更に有名なドコサヘキサエン酸(DHA)は多価不飽和脂肪酸に属する、n-3系の不飽和脂肪酸ということになります。
脂肪酸一家の家系図………全体像を把握するには、図で見た方が一目瞭然です。
脂肪酸 | 飽和脂肪酸 | 短鎖脂肪酸 | 酢酸、酪酸、カプロン酸 |
中鎖脂肪酸 | カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸 | ||
長鎖脂肪酸 | ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸 | ||
不飽和脂肪酸 | 一価不飽和脂肪酸 | オレイン酸、トレイン酸 | |
多価不飽和脂肪酸(n-3系、n-6系) | リノール酸、DHA |
脂肪酸は主に糖質に変わるエネルギー源となりますが、脂肪酸にも多くの種類があり、その種類ごとに栄養素としての働きや役割も変わってきます。(働きだけじゃ無く、種類ごとに性質も変わります)バターとごま油とでは色も状態も全く異なります。方や液体、方や固体、白っぽいバターに対してごま油は琥珀色………と、このような数多く存在する食用油の性質の違いが脂肪酸の違いということになります。
リノール酸などの末端の脂肪酸は、それぞれ性質の違いや特徴によってグループに分かれているため、グループ毎の特徴を捉えてグループの全体像(組織図)をザックリと頭に入れておくと、脂肪酸単体の働きや特徴が解りやすくなるかと思います。
最近ではリノール酸は体に良いとかってよく言われていますが、良い面もあれば悪い面もあります。その辺りをしっかりと見極めて公平にジャッジすることが大切です。

誰と誰がどの組織に属していて、アイツとコイツが兄弟分の杯を交わしていて、どの組と、どのチームとが、こんな理由で抗争状態にある………とかね。

■飽和脂肪酸とは?体に良いの?悪いの?
◎飽和脂肪酸の性質と特徴・どんな形?
まずは飽和脂肪酸から………悪のイメージがすっかり定着してしまった栄養素です。
主に肉類(豚・牛)や、乳製品に多く含まれています。
融点が高く(溶けるために必要な温度)、常温では液体にならず、固体の状態を維持しています。
有名な物では、マーガリン、バター、ラードなど、これらの油脂はフライパンの中で液体になっている状態よりも、常温や冷蔵庫の中で白くカチッと固まっている状態のイメージ方が強いかと思います。
ちなみに、よく勘違いされますが、飽和脂肪酸とコレステロールは別人です。
牛脂や豚脂は飽和脂肪酸が多く含まれているのですが、コレステロールはあまり含まれていません、逆にレバーはコレステロールが多く含まれており、飽和脂肪酸は少ししか含まれていません。
飽和脂肪酸化学的な構造のとして、↑で解説した炭素車両の基本的な構造をしています。飽和脂肪酸の場合は先頭車両の前と炭素車両の両側面には水素がくっついており、不飽和脂肪酸と違って二重結合は見られません。最後に最後尾車両にカルボキシル基がくっついて、基本に忠実といった感じで炭素が規則正しく直列に並んでいる………といった構造をしています。

飽和脂肪酸の場合、脂肪酸としての性質の違いは炭素車両の数によって決まります。6個以下を短鎖脂肪酸、8個~10個を中鎖脂肪酸、12個以上を長鎖脂肪酸と呼びます。
乳製品に含まれるマイナス5℃以上で溶ける性質の酪酸(らくさん)は、炭素連結数4つの4両編成、パーム油に含まれる融点44℃のラウリン酸は12両編成、落花生に含まれるアラキジン酸は20両編成で融点は76℃………と炭素の連結数だけでこれだけの違いが出てきます。

飽和脂肪酸は化学的に見ると元素が真っ直ぐ規則正しく整列しているため、構造が安定しており、酸素と結合しにくい状態にあります。そのため酸化しにくいという性質も持っています。

構造が安定して酸化しにくい………ここまで見る限りでは、良い奴のように思えるのですが、摂りすぎるのは問題です
飽和脂肪酸は主にエネルギー源として利用されます。中性脂肪やコレステロールの原料となり、多く摂りすぎると血液中の中性脂肪やコレステロールの濃度が上がり、動脈硬化や脂質異常症を引き起こす原因となります。
悪玉コレステロールが増える原因ともなりますので、善悪の2択で判断するのであれば、飽和脂肪酸は悪と捉えられてもあながち間違いではありません。(例外はあります)
◎飽和脂肪酸の種類
飽和脂肪酸には短鎖脂肪酸、中鎖脂肪酸、長鎖脂肪酸の3種類が存在します。
▼短鎖脂肪酸
短鎖脂肪酸の特徴としては、炭素の数が少なく6個以下の物を短鎖脂肪酸と呼びます。その名の示すとおり短い構造をしています。炭素数が少ないということは分解され易く、油としては比較的水に溶けやすくなり、炭素の数が少なくなればなる程、油としての性質は薄れていきます。食品としては肉や乳製品に多く含まれており、パーム油など一部の植物性油にも含まれています。融点が低く、あまり油らしくない物質です。
酢酸、酪酸、カプロン酸などがあり、炭素の数が減れば減る程(短くなればなる程)………臭いッ!!
酢酸はお酢、お酢は臭い。酪酸は銀杏の臭いの元凶にして、加齢臭(油の乗ったおっさんの香り)の元凶でもあり、銀杏も油の乗ったおっさんも基本的に両方臭い。
【短鎖脂肪酸の種類と性質】
脂肪酸の名前 | 炭素数 | 融点(℃) | 主な食品 |
酢酸 | 2 | 16.6 | お酢 |
酪酸 | 4 | -3 | 乳製品(バター、チーズ) |
カプロン酸 | 6 | -5 | 乳製品(バター、チーズ) |
▼中鎖脂肪酸
炭素の数が8~10個の物を中鎖脂肪酸と呼びます。
ココナッツ油やパーム油に含まれています。
太りにくく、酸化しにくく、中性脂肪の分解や血中コレステロールを下げるなどの働きがあることから”良い油”として注目されています。
また、アルツハイマー病の改善などに有効な脂肪酸として研究が進められています。
2008年のアメリカで、中鎖脂肪酸のココナッツ油を若年性アルツハイマー病の患者に摂取させてみたところ、記憶力の低下が抑制されたという報告があります。
通常時では脳のエネルギー源として利用されるのは100%がブドウ糖となります。認知症などを発症した場合、脳が上手くブドウ糖を利用できなくなってしまい、その結果脳の機能が失われてしまいます。
その様な状態でブドウ糖の代わりに脳のエネルギー源となる物質が、脂肪酸から作られたケント体です。
認知症に限らず、例えばダイエットなどで意図的に糖質を全く摂らなかった状況が続くと、同じようにブドウ糖が利用できない状態となるため、この様な場合であってもケント体が脳を動かすエネルギーの代用品として利用されます。
中鎖脂肪酸は中鎖脂肪酸に比べると分解され易く吸収が速いという特徴を持っています。
脂肪に蓄積されてから利用される長鎖脂肪酸とは対照的に、直接肝臓にまで運ばれてケント体を作り出します。中鎖脂肪酸の消化吸収の速度は長鎖脂肪酸の約四倍と言われています。中鎖脂肪酸は脂肪になりにくく、エネルギー効率に優れており、太りにくいと言われている理由はこの部分にあるようです。
実際のところ、動物実験でも人体実験でも中鎖脂肪酸とそれ以外で比較してみた結果太りにくいという結果が出ています。

太りにくい(脂肪が付きにくい)、エネルギー効率が良い、糖質の代わりに脳を動かすエネルギー源となる、アルツハイマー病の改善に有効。こうして効果を並べてみると中鎖脂肪酸は”良い油”だという事がよく解ります。
ココナッツ油………7~13%
牛乳・乳製品………3~5%
母乳………3%
【中鎖脂肪酸の種類と性質】
脂肪酸の名前 | 炭素数 | 融点 | 主な食品 |
カプリル酸 | 8 | 17 | 乳製品(バター、チーズ)、ココナッツ油 |
カプリン酸 | 10 | 32 | 乳製品(バター、チーズ) |
ラウリン酸 | 12 | 44 | パーム油、ココナッツ油、バター |
▼長鎖脂肪酸
炭素の数が12個以上の物を長鎖脂肪酸と呼びます。
炭素数が少ない(連結が短い)と油の性質が失われますが、逆に炭素が長くなると分解されにくく、水に溶けにくいという油の性質が強くなります。
魚の脂や、市販の調理用油の殆どが長鎖脂肪酸になります。飽和脂肪酸の種類の中では一番にヌルヌルしています。
長鎖脂肪酸の種類と性質
脂肪酸の名前 | 炭素数 | 融点 | 主な食品 |
ミリスチン酸 | 14 | 54 | ココナッツ油、パーム油、バター |
パルミチン酸 | 16 | 63 | 牛脂、豚脂、綿実油、大豆油、コーン油、オリーブ油、パーム油 |
ステアリン酸 | 18 | 70 | 牛脂、豚脂、綿実油、大豆油、コーン油、オリーブ油、パーム油、バター |
アラキジン酸 | 20 | 76 | 落花生・綿実油 |
ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸などは別の記事で解説します。
■飽和脂肪酸まとめ
飽和脂肪酸はエネルギー源として利用されます。融点が高く、常温で固まりやすい性質が有り固形の状態の物が多いのが特徴です。炭素が真っ直ぐ整列しているため、化学的に安定して酸化しにくい脂肪酸です。摂りすぎると中性脂肪を増加させたり、血中の悪玉コレステロール(LDL)が増えるなど、動脈硬化や脂質異常症などの害があります。
中鎖脂肪酸など種類によっては逆に善玉コレステロール(HDL)を増やして、悪玉コレステロール(LDL)を減らす働きをする物もあります。
摂りすぎると動脈硬化などの疾患に繋がりますが、全く摂らないというのもNGです。
飽和脂肪酸の良い面、悪い面を理解して正しいヌルヌル生活を送ることが健康への近道となります。油を摂取すれば必然的に飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸の両方を摂取することになります。飽和だけ、不飽和だけということはできませんので、大事なのは脂肪酸の種類とバランスです。それぞれの油にどんな脂肪酸がどれだけ含まれているのかを良く見極めて自分に合った適度なバランスを見つけることです。
